「船員のロマンチックな思いとでも言いましょうか、ドライドックであったところに水が入り、初めて新しい船の船体が浮かぶのを見るのはとても感動的です。鉄でできた巨大なブロックが集まってできた複雑なジグソーパズルが、水に触れるという変化の時。私は、ここで船体が船に変わると考えています。

 

ドックのバルブが開かれる数時間前、ベニスの近くにあるフィンカンティエリ・マルゲラ造船所の巨大な建造現場の乾いた床に下りました。数十万リットルもの水の流入が差し迫っているため、ドライドックは片付けられ整然としていました。船尾の下にあるクイーン・アンの洗練されたアジポッド推進システムを見ることができたのは、実に素晴らしい体験でした。」

「船首までおよそ300メートル。船体の下を端から端まで歩いてみました。頭上には、船を動かし続けるために必要な技術設備一式を収容する広大なスペースが広がっていました。そのさらに上には、キュナード船団の249番目の船にふさわしい、豪華な客室と壮麗なパブリックルームを備えた13層のお客様用デッキがそびえています。」

 

「感動に満ちた私の歩みは、巨大なバウスラスターの前で止まりました。このユニットは驚くほどのパワーを秘めており、操舵室にいる私の指先ひとつで操作されます。

 

その先には、クイーン・アンの球状船首が長く伸び、ドックの先端から静かに突き出していました。

 

数時間後には、これらすべてが水に包まれ、船は本来の姿へと生まれ変わるのです。」

 

「自分の頭上にそびえ立つ、キュナード船団で2番目に大きなこの船。その圧倒的なスケールと、設計・建造における精緻な技術の数々に目を奪われていると、クイーン・アンが比類なき洋上体験をお客様に提供するという事実を、つい忘れてしまいそうになります。

 

進水式を迎える前から、船内の素晴らしいパブリックエリアでは内装工事が着実に進められていました。そして、最後に造船所を訪れて以来、私は2つの点に大きな驚きを感じました。」

 

「ひとつ目の驚きは、工事の進捗が想像以上に早いこと。そしてふたつ目は、ラウンジやバー、スパとウェルビーイングの複合施設、レストラン、シアター(本当に美しい空間です)、そしておそらく最も印象的な場所となるであろうグランド・ロビーなど、お客様にご満足いただけるであろう多くのエリアが、デザイン・施工の両面において驚くほど高いクオリティで仕上がっているということです。

 

これから数か月のうちに、進水式で命を吹き込まれた船体と同じように、これらの空間にも次第に息吹が宿り、真の姿を現していくことでしょう。」

 

Captain Inger headshot photo

インガー船長 インガー・トーハウガ船長

キュナード船長

「キュナードのパートナーであるフィンカンティエリ社は、現代の造船における複雑なプロセスに対応する、豊富なスキルと経験を有しています。彼らの技術によって、船の造り方が根本的に変わりました。組み立てた船殻を船台の上で滑らせるという新しい手法が導入されたことで、船全体を一度に進水させる従来の方法は姿を消しました。その魔法のような瞬間に代わって登場したのが、「フロートアウト」という新たな進水方法です。

巨大なドライドックに水を注ぐ作業は、かつてのように船体を船台で滑らせる方法のように、すぐに完了するものではありませんでした。しかし、フィンカンティエリの技師たちは、その瞬間が記憶に残る素晴らしいイベントとなるよう、全力を尽くしてくれました。式典の主役を務めたのは、クイーン・アンのゴッドマザー、すなわち命名者であるロベルタ・ムンドゥーラ氏でした。彼女はフィンカンティエリで30年以上にわたり船の納品に尽力してきた功績が認められ、この大役に選ばれました。ロベルタ氏はその役割に深く感動し、どこか恐縮している様子も見受けられました。

 

私たちは造船所で数時間を共に過ごし、キュナードの183年にわたる歴史の新たな章が刻まれるその中心に、自らが立っているという名誉ある瞬間を分かち合いました。2024年のクイーン・アンの初航海シーズンに、さらに多くの歴史的な瞬間を皆様と分かち合える時を待ち遠しく思っています。私たちの新しい船が初めて海に浮かび、今、まさにその使命を果たすべき場所に立っています。」

クイーン・アンの物語